迷走する「でんでんタウン」 サブカル・風俗・免税・ビジネスホテルが進出…“顔のない街”に
電気、サブカルの次は?
日本橋が電気街として最も栄えたのは昭和40~50年代。上新電機、ニノミヤ、中川無線、マツヤデンキの“家電四天王”を中心に堺筋沿いに電気店が軒を並べ、「まけてぇなぁ(安くして)」などと買い物客が店員と値切り交渉をする声が飛び交っていた。
しかし長引く不況や郊外型安売り家電店の台頭などで、10年余り前から次々と閉店したり、パソコンやオーディオ、照明などの専門店に姿を変えたりしてきた。
そして昨年8月、「来た、見た、買(こ)うた」のCMで知られる「喜多商店」が閉店したことで、堺筋沿いの電気店は全滅。大型店としては堺筋から1本東の通りの上新電機「ジョーシン日本橋1ばん館」を残すだけとなった。
これに代わる形で、堺筋西の通称「オタロード」を中心に同人誌専門店やゲームソフト店、メイド喫茶などが相次いで誕生。日本橋はサブカルを中心としたオタク街へと変貌した。
外国人観光客も取り込め
さらに最近目立つのが、免税店だ。喜多商店のあったビルは、表の看板はそのまま残るものの、中は免税店になっていた。店の前に大型バスが停車し、アジア系外国人が次々に入っていく。店内は電化製品やブランド品、化粧品などが並び、中国語や韓国語が飛び交っていた。
地元では、東横インができれば、こうした外国人観光客も多く宿泊するようになるとみている。
一方、“メイド文化”から発展する形で、若い女性がマッサージしたり、客と一緒に散歩をする「リフレ」や「JK(女子高生)」ビジネスと呼ばれる風俗まがいの形態も登場。一部の悪質なメイド喫茶が強引な客引きやぼったくりを行うなどして治安の悪化を指摘する声もあがっている。
サブカルチャーに関する店が目立つ日本橋のオタロード
「でんでんタウン」と呼ばれ、かつては関西有数の電気街として栄えた大阪・日本橋が大きく様変わりしている。家電やパソコンを販売した大型総合電気店が姿を消し、アニメ専門店やメイド喫茶が並ぶサブカルチャーの街に変貌したかと思えば、最近は免税店や風俗まがいの店が進出。ビジネスホテルも計画され、はっきりした街のカラーがなくなったともいわれる。東京・秋葉原が電気街とサブカル街がうまく融合し、世界中から観光客を集めるのとは対照的で、にぎわいが薄れ、地元関係者も街の将来の方向性が見いだせずにいる。
10年も更地だった場所にホテルが
日本橋の最近の変化を象徴するのが、ビジネスホテル大手「東横イン」(東京)の進出だ。日本橋は電気各店のビルがひしめき、買い物の街というイメージも強かったため、大きなホテルなどはなかった。しかし街の変化に伴い、繁華街の難波や天王寺にも近く、地下鉄など交通の便のよい立地が見直されたようだ。
ホテルは、平成17年に経営破綻し、その後に廃業した大手家電店「ニノミヤ」日本橋本店(大阪市浪速区)の跡地(敷地面積約675平方メートル)に建設予定。でんでんタウンの中心に当たる場所だが、リーマン・ショックなどの影響もあって10年近くも更地状態で放置され、街の衰退を象徴する場所となっていた。
同社によると、ホテルは13階建てで、「当初は来春オープンとしていたが、工事計画が延びて来年中のオープンを目標にしている」(広報部)。地元関係者によると、1階部分に宿泊客だけでなく一般客も利用できるレストランを開設するよう要請しており、ホテル側も前向きに検討しているという。
こうした状況を昔ながらの地元の関係者はどう見るのか。「日本橋筋商店街振興組合」の担当者は「一時期は電気店とサブカルチャー専門店が対立したこともあったが、結局は人が集まらなくては街ではなくなる。『電気』は街の看板ではなくなったが、どんな形であっても、お客さんに来てほしい」と、なりふり構ってはいられない窮状を明かす。
昔ながらの電気店経営者らでつくる「でんでんタウン協栄会」の担当者も、治安が悪化するようなことを除けば、「街が盛り上がれば何でもいい」と話す。
「昔の電気店経営者は、世渡り上手のめざとい人間が多かった。家電を置けば簡単に売れるから電気店をやっていただけで、実は電気に対するこだわりはなかった」とも。
日本橋は、戦前は古書街として栄え、戦後の混乱期はラジオの部品屋から発展してきた歴史がある。現在も部品屋やパーツ屋などが多く残っており、同会は「『ものづくりのまち』『最先端の趣味のまち』として売り出せれば」という。
街の変遷をつぶさに見てきた日本橋のフリーペーパー「pontab」の楠瀬航編集長は「家電業界は大手企業の寡占化やネット通販の浸透で、地場産業が淘汰(とうた)されてしまった。そんななかでも、独自の流通に強みを持つ地元資本の専門店は生き残っている。日本橋は都心の繁華街なので一定の立場は確保できるだろうが、大きな過渡期を迎えているのは事実」と話す。
“顔のない街”になって迷走する日本橋はどこへ向かうのか。
東横インってすごいんですね。